木漏れ日の差す小春日和の陸運局は、そんな平穏さをも否定するかのように、色々な私或の入り乱れる主戦場と化している。
「すごくきれいな髪だね」
「えっ!」
動揺にも似た驚きと・・・・突然の出来事に・・・・、そんな無意識に振り返る自身の体の条件反射に間髪入れず、
「背が高くて・・・・スーツ姿が一際目立ってるよ」
女性に主導権を取らせまいと、自身の本能にプログラムされる「日本男児たるは」・・・・と言う潜在意識が
「そんな貴女こそ、素敵ですよ」
少しだけきざっぽく、情感豊かに反論する・・・・。しかしそれは状況を一転させるには材料不足で・・・そう、先制攻撃の優を、確実に彼女に許してしまった。
・・・・・それからしばし、主導権を握れぬまま、彼女の一方的な質問攻めに・・・・、いつの間にか、そんな彼女の意のままになっている自身・・・。
ただ黙ってはにかむのが精一杯であった。
でも・・・それは決して、気分を害されたとか、そんな感は無く・・・・そう、とても手馴れた彼女のリードに、むしろ慌しいはずのこの今の時間を置き忘れさせるほどの・・・・・
・・・・・彼女は自身とは比べ物にならないほど「大人」なのである。
後ろ髪を惹かれるような・・・・そんな瞬間的な感覚に、きっとそんなに長時間ではないはずの「しばし」を楽しむ。
絶やすことの無い彼女が手向ける素敵な笑顔に、ついつい時間を忘れてしまう。
ほんの僅かの時間だからこそ・・・・尚更に後ろ髪引かれる伝えるべき言葉・・・・
「そろそろ行かなきゃ・・・。」
「・・・・・・それじゃ」
こんなときは何時もそう・・・・、決して振り返ることが無いように・・・・・。
・・・・片方の手で事足りるほどの・・・・優柔不断な自身の決意に、明らかに順光の中の彼女を探す・・・・。
自身の母親以上の年齢であろう彼女の背中は少しだけ前のめりに・・・・、そんな自身と相反し、決してこちらを振り返る事もなく小走りに・・・・・等速で去っていく。
久しく感じる・・・・・心地よい春の木漏れ日が燦燦と降り注ぐ3月の某日は、こうして始まっていく・・・。