4時丁度の目覚ましの音に、少しだけいつもと違う感覚を覚え、意外に早く目を覚ました。
夜明け前の高山は・・・ものすごい雪である。
始発の高山駅には、何か起きそうな予感の自身と、当たり前にもう何十年もこの日常を繰り返してきたのであろう駅員の・・・・、ほんの2.3人の姿しか其処にはなかった。
S川氏とのほんの僅かの別れの後に、定刻通りに、そして振り向くことなく走り出したジーゼル機関車に引っ張り始められた貸切の客車は、車窓と共に走り行く豪雪の中を、ただ一人の旅客のみで、一路帰路へと、其の名残惜しさを追い立てるかのように走り始めた。
旅の折に触れ、そして感じるこの刹那的な移動の空間は、自身の感情を普段以上に高ぶらせ、レールの継ぎ目を一つ一つ背中に感じ・・・、その度に、まるで自身の人生観をそれそのものになぞらえるかのように、生きてきた数十年をついつい振り返ってしまう。
降りしきる雪は、其の瞬間瞬間に自身の身の上に降りかかってきた、幸福や挫折や、そして苦しみそのものの象徴であり、過ぎ去り流れすぎる其の景色は、紛れも無く、過去と言う名の思い出として、今だけは美しく置き去られて行く・・・。
各駅停車のこの鈍行列車に身をゆだねる現在の自身の心情心理が、幾分かの感傷を呼び起こし走り去るこの列車に・・・、乗り込む人の一人ひとりが、自身の出会ってきた・・・、そして救われ続けた多くの人々に重ね合わされ、まだ瞼の奥に残る、睡眠不足の意識によって、暗闇の薄明かりに照らし出され続ける雪の其の先へと、遠のき置き忘れ去られてしまいそうで、慌てて書き綴り続けるこの想い。これからもしばらくは続くであろう自身の旅への道しるべとして、この意識を確実に記憶したく、さらに思いの丈を書き綴る・・・。
大事にしてきたものや、大事にしたいもの、必要に感じる物事の多くがつい瞬間の感動に置き忘れられがちなこの現代で、二度と出会うことの無いこの時間の必然性に、改めて確信の念を抱き、それでもなお降り続ける車窓の雪と、背中に感じるレールの継ぎ目に、そしてしばしこの漆黒の闇に引かれたレールをひた走るジーゼル列車の実直さに・・・、しばらくの間、現実逃避という各駅停車の旅を・・・・、今だけはその身を委ね続けたい。
これは決して・・・、しばらく後に繰り返される未来へ対する拒絶反応では決してなく、・・・ほんの僅かのあいだの心の旅であるはずである。